「起業すれば自由になれる」——そう思っていた時期が私にもあった。実際に会社を立ち上げてみると、それは半分正しくて半分まったく違った。自由の代わりに責任が、安定の代わりに不確実性が、毎日どっさりとやってくる。それでも「正解だった」と言い切れるのは、その不確実性の中にしか自分の成長がないと確信しているからだ。
Qeight創業の経緯:なぜIoTだったのか
2024年1月、株式会社Qeightを設立した。事業の軸に選んだのはIoT・ハードウェア領域、特に製造業向けの在庫管理システムだ。「なぜソフトウェアでなくハードウェアなのか」とよく聞かれる。理由はシンプルで、「まだ誰も解決できていない課題が山積している領域だったから」だ。
日本の製造業の現場では、在庫管理を今なお紙やExcelで行っている企業が多い。「どの棚に何がどれだけある」という情報がリアルタイムで把握できないことで、過剰在庫・欠品・作業ロスが恒常的に発生している。この課題をセンサーとIoTで解決する——その一点に絞って事業を立ち上げた。
創業1年目:とにかく動いて、とにかく失敗した
最初の1年は「失敗の連続」と表現するのが正直なところだ。初期のプロダクトは精度が安定せず、顧客に提案しても「もう少し成熟したら検討する」という返答ばかりだった。資金は減り続け、「このまま続けて意味があるのか」という問いが毎晩頭をよぎった。
転機になったのは、一人の製造業の担当者から「こういう機能があれば本当に助かる」という具体的なフィードバックをもらったことだ。それまでは「自分が作りたいもの」を売ろうとしていたが、そこから「顧客が本当に困っていること」に軸足を移した。プロダクトの方向性を大きく変えたのが創業1年目の後半だった。
創業2年目:チーム作りの難しさと採用の失敗
事業の手応えが少し出てきた2年目は、チーム作りに本腰を入れた時期だ。だが採用は想像以上に難しかった。スタートアップへの参画は「リスクを取れる人」でないと続かないし、そういう人は引く手あまたで獲得競争が厳しい。給与面で大企業に勝てない中で、「何を訴求するか」を何度も作り直した。
一度、採用した人材とビジョンのすり合わせが不十分なまま進めてしまい、わずか3ヶ月で離脱されてしまったことがある。これは採用基準の問題ではなく、「入社前にどれだけ本音で話せたか」の問題だった。それ以来、採用プロセスに「一緒に顧客訪問する」「ランチを複数回重ねる」という時間を必ず組み込むようにした。
現在は海外インターンを積極的に採用し、売上の一定割合を人件費として充てる仕組みを作っている。多国籍なチームは視点の多様さをもたらし、特に中国市場へのアプローチで大きな力になっている。
3年目のリアル:手応えと次なる課題
創業3年目に入った今、少しずつ「事業の芯」ができてきたと感じている。製造業向けの導入案件が積み上がり、大企業との商談も動き始めた。それでも課題は尽きない。大企業の意思決定サイクルは長く、導入から稼働まで数ヶ月〜1年かかるケースもある。その間のキャッシュフロー管理は経営の最重要課題であり続けている。
資金調達についても、VCや補助金を活用しながらランウェイ(資金が尽きるまでの期間)を常に意識している。「次の資金調達が完了するまでに、どこまで事業実績を積めるか」というプレッシャーは、創業初日から変わらない。

「売上・資金・チーム」の3つを同時に動かす難しさ
創業3年目の最大の課題は「3つのボールを同時に投げ続けること」だ。売上を作るために営業に集中すれば採用が止まる。採用を進めれば資金が減る。資金調達に動けば日常業務が止まる。この3つのトレードオフは、創業初期には教科書通りに解けない。
私が選んだのは「売上を最優先にする」方針だ。外部資本に依存しない収益基盤を作ることに集中した。VCから大型調達をして急成長を狙う道もあったが、意思決定の自由を手放す気にはなれなかった。「スピードより自由度」を選んだという意味でもある。
まとめ:起業は「なんとかなる」の連続だ
「起業したいけど怖い」という相談を受けることが増えた。私の答えはいつも同じだ——「始めてみないとわからないことが9割、始めてみてわかることが1割」。資金が尽きる恐怖も、採用の失敗も、顧客に断られる悔しさも、全部「始めた人にしかわからないこと」だ。それを知れたこと自体が、最大の資産だと思っている。まだ道の途中だが、走り続ける理由には事欠かない。


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